7月18日(金)本番2日前。大蔵院。
午後2時から、高校生と、ヘンリー、司会、プロデューサを交え打合せの日。
昼前、西高の教頭先生から、増田の携帯電話に連絡が入る。
「あのねえ、一人、部活の都合で参加できなくなったんですよ、A君なんですが」
「えっ!」
絶句する私。
A君というのは海外生活が長く、日本語と同じように英語を話すことのできる少年。つまり、今回の高校生プロジェクトの中心人物。彼がいるからこそ、誰もが、おとなたちも、高校生も安心していたのだ。
「何とかなるよ、A君に任せておけば」と。
「それって、何とかならないんでしょうか。」
聞き返す私に、教頭先生の声は意外と明るい。
「こどもたちは、大丈夫って言ってますよ」
もう、悩んでいても仕方がない。
頼れる人物はもう居ない。自分たち、一人一人が頑張るしかないんだ。
高校生たちにも、そう言おう。窮地を克服してクリーンヒットを打ち返そう。
そして、大蔵院。
打合せが始まった。
大丈夫、といいつつ、どこか不安気な子どもたち。
「1ベルがあって、2ベルでスタート」
「緞帳あく」
「司会の位置は?」
「ヘンリー上手から。子どもたちは?」
「20分しかないのに、緞帳をあけている時間が無駄じゃないかな。」
「導入部分のシナリオは?」
「通訳は どこ?」
「椅子必要? 立ったまま?」
「スポットは?」
不安げな子どもたちを前に、おとなたちの仕切りがどんどん進んでいく。
肝心のヘンリーは、別室で、前々日に子どもたちが手渡した質問事項のノートを手に、何やらどんどん書き込んでいる。
本番が近づいている緊張感が大蔵院を包みこんでいた。
「トークセッションという企画はおもしろいよね。明石ならではの企画だし、ヘンリーの思いともぴったりだ。なんとしてでも応援したいよね。でも。。」
大人たちの気持ちは一致していた。
高校生たちの取り組みをなんとしても応援したい。
でも、コンサート全体の流れの中で、どうもしっくり収まらない。
絵が見えてこないのだ。
舞台を作るおとなたちも具体的なストーリーを描ききれずに焦り出していた。
前日とは違う緊張感。
子どもたちはどう感じていたんだろう。
一人の子はこのようにふりかえる。
「最初の打ち合わせの時にいろいろ説明聞いてて,
『ホンマに私で大丈夫なんかな-』って不安でした。
積んでは崩し、崩しては積む打合せが1時間くらい続いたところで、おおまかなストーリーができあがり、「これでいいだろう」という段階でヘンリーがミーティングに参加した。
通訳がこれまでの方向性を説明する。
じっと耳を傾けていたヘンリー、大きくうなずき「OK」というなり、本人の考えを語り始めた。
じっと聞き入る高校生たちとスタッフ。と、なにが語られているのかが分からない私。
が、私にも分かる。
場の雰囲気がどんどん明るくなっていくのが。
高校生たちが、「yes」「yes」と大きくうなずくたびに、表情が明るくなっていくのが。
霧が徐々にはれて、目標の場所がみえてきた、そんな目の輝きだった。
「なになに?」
ヘンリーの説明がおわるのすら待ちきれずに私。
「どうしたの? どうするの? 説明してよ」
「さすがヘンリーだよね。そういう展開があったのか。」
増田ひとり、ほったらかしだ。
「つまり」と、通訳兼プロデューサー氏が話し出す。
今回のコンサートジャパンツアーのテーマは、INDABA(インダバ)です。INDABAとは、出逢って、語り合い、本当のことを分かちうこと。この経験によって、沢山の愛とエネルギーを生み出してきたのです。戦争すら回避されてきたこともある。まさに、今回の高校生たちの企画は、INDABAであり、単にインタビューという形でなく、お客様の前で、INDABAそのものを展開していく、そういうストーリーにしたいというのです。
導入は、ヘンリーが、簡単なあいさつ。2分。
続いて、私の友人、TADASHI(注:梅宮くん、part2で説明)が、友人たちをここに連れてきてくれた、紹介しましょう、と高校生を舞台に招き入れる。
4人に高校生が舞台へ。
簡単なあいさつをして、ヘンリーを中央にして、左右に二人の高校生が座り、語り出す。
20分間は、ヘンリーと4人の高校生による英語のトークセッション。通訳不要。
全体のストーリーの中で、高校生たちが考えてきた質問を中心に、ヘンリーと共に語るという展開でいきましょう。
というものだ。
説明が終わり、「そういう展開があったのか」と、一人遅れて感動している増田。
「さすがだよね、すごいね」ととっくに感動にしたっている子どもたち。
さらにびっくり。
ヘンリーの説明が一通り終わったところで、いま、終わったばかりなのに、早速、「やってみよう」という。
「OK」と子どもたち。
即、シナリオあわせだ。
あとは、ヘンリーと高校生たちが、どんどん内容を作り上げていく。
「あーでもない、こーでもない」
20分間の舞台を、オール英語でやりとりして作り上げていく様子を間近に見ながら、本当に涙が出た。
「すごいよ、すごすぎるよ」
「きっと、君たちならできる!」
そう確信した、金曜日。
本番まであと2日。
明日土曜日午後2時から最終リハーサル。
でも、実はまだ肝心なことが決まっていなかったのだ。
(次回に続く)